I. 需給動向
1. 供給
AgroMonitorのデータによると、2026年5月時点で、ベトナムは冬春作(Winter–Spring Crop)から約338.5万トンのコメを輸出した。市場需要には大きな変動が見られたものの、輸出数量は概ね前年同期と同水準を維持している。
2026年5月末時点において、商工省および農業環境省のデータによれば、ベトナムは110万トンのコメを輸出し、輸出額は5億1,200万米ドルとなった。2026年1〜5月の累計輸出量は450万トンとなり、前年同期比6.6%増加した一方で、輸出額は3.6%減少し21億米ドルとなった。
供給面では、ベトナムの夏秋作(Summer–Autumn Crop)は、作付面積138.2万ヘクタールから296万トンの生産が見込まれている。生産コストおよび物流費の上昇により作付判断が慎重になる可能性はあるものの、生産量は前年とほぼ同水準を維持し、減少幅は1.2%程度にとどまる見込みである。
2. 需要
過去にベトナム産香り米(Fragrant Rice)の輸入を縮小していたフィリピンは、2026年初めに再び市場へ戻ってきた。国内需要の強さを背景に、同国のコメ輸入量は2026年に約550万トンに達すると予想されている。
2026年6月時点で、ベトナムからフィリピン向けのコメ輸出量は210万トンを超え、2025年同期の189.4万トンを上回った。これは同市場の継続的な輸入需要の強さを示している。
フィリピンに加え、中国も世界のコメ輸入需要を支える主要市場の一つであり、2026年の輸入量は約320万トンで安定推移する見込みである。
また、中東地域における地政学的な不確実性が継続していることから、地域内の貿易パターンにも変化が生じている。イラクは代替的な戦略市場として存在感を高めており、コメ輸入量は大幅に増加し、2026年には約215万トンに達すると予想されている。
II. リスク要因
1. 世界的な気候リスク:2026年のエルニーニョ
国際気象機関は、2026年6月以降90%を超える確率でエルニーニョ現象が再発し、2027年初頭まで継続する可能性が高いと予測している。多くの専門家は、今回のエルニーニョが「スーパー・エルニーニョ」に発展する可能性があり、過去150年間で最も強力な事例の一つとなり、2015~2016年のエルニーニョと同程度の規模になる可能性があると警告している。

赤道太平洋の海面水温上昇がエルニーニョ形成を示唆
エルニーニョの再来は、南アジア、東南アジア、およびオーストラリアに重大なリスクをもたらすと予想されている。特にインドネシアやマレーシアでは、極端な高温、広範な干ばつ、森林火災リスクの増加が見込まれる。
さらに、この現象は気象面だけでなく経済活動にも影響を及ぼすと考えられている。農業生産は水不足による制約を受ける可能性があり、水産業では海水温の上昇と魚群移動による漁獲量の減少が懸念される。また、水力発電量の低下と電力需要の増加により、エネルギー分野への負担も高まる見込みである。
2. 世界のコメ供給への影響

アジアのコメ生産はエルニーニョの大きな影響を受ける見込み
エルニーニョにより主要生産地域で水不足が深刻化することで、世界のコメ供給への圧力が高まると予想される。
フィリピンでは、悪天候が長期化した場合、コメ生産量が最大で50%減少する可能性がある。一方マレーシアでは、貯水池の水位低下がすでに作付けの遅延を引き起こしている。
こうした供給リスクに加え、生産コストの上昇も重なることで、食料価格の上昇を支える要因となり、今後数か月間にわたり世界的な食料インフレ懸念が強まる可能性がある。
III. 市場見通し
2026年初め以降のフィリピンからの需要増加、およびカンボジアからの籾輸入の減少を背景に、ベトナムの冬春作由来の在庫は引き続き逼迫している。特にOM5451、OM18、DT8といった白米品種でその傾向が顕著である。
一方で、供給見通しは依然として良好である。今後収穫される夏秋作の生産量は安定すると予想されており、今後数か月間にわたり十分な供給が確保される見込みである。
さらに、気象予測によると、ベトナムは地域内の他の主要コメ生産国と比較してエルニーニョの悪影響を受けにくい可能性があり、国内供給および輸出能力の維持に寄与するとみられる。
フィリピンは2026年のコメ価格を支える最も重要な要因の一つであり続ける見通しである。
8月から始まる夏秋作の収穫を前に市場取引は活発化すると予想されており、今後数か月間のさらなる米価上昇を後押しする可能性が高い。
